「カセットストアデイ2020×小さいふ」【特別インタビュー】全カテ連会長岸野雄一さんに聞く「カセットテープの魅力」

カセットストアデイは2013年にロンドンでスタート。欧米各国を始め、中国、インドネシア、オーストラリア、カナダなど世界中で開催されるイベントへ成長しました。カセットストアデイは8年の歴史の中、 The White Stripes、Green Day、Ramones、The Flaming Lips、Motörheadなどのリリースを行ってきました。  カセットストアデイ

カセットストアデイを祝おう

「カセットストアデイ2020×小さいふ」を記念して全カテ連会長(全国カセットテープ愛好者連盟)の岸野雄一さんにカセットテープの魅力についてインタビューさせていただきました。

1980年代に世界中で普及したカセットテープと家庭用ラジカセ。それは音楽メディアの持ち運びと独自の編集を可能にする画期的な出来事でした。
日本製のラジカセはアメリカに渡り、黒人のストリートカルチャーと融合してHIPHOPのアイコンとなり、貧しい黒人の間から生まれた文化は世界中に広がりました。

古代ギリシアのヘラクレイトスの言葉に「同じ川に二度と入れない」という言葉があるように、私たちは過去の時代を体験することはできませんが、人や本、映像を介して間接的に体験することはできます。

1980年代に遡って私たちに新しい体験を与えた「カセットテープの魅力」について、多分野で長く音楽に携わってこられた岸野さんにお聞かせていただきました。
カセットテープから今も色褪せない時代の煌めきが聞こえてくるようです。

岸野雄一 
勉強家(スタディスト)・公界往来人 東京藝術大学大学院 、立教大学現代心理学部、広島市立大学芸術学部・非常勤講師、美学校音楽学科・主任。第19回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門大賞受賞。ヒゲの未亡人、ワッツタワーズ、スペースポンチ、流浪のDJ、全カテ連会長ほか。


全国カセットテープ愛好者連盟

クアトロガッツ

岸野さんは全カテ連(全国カセットテープ愛好者連盟)の会長をされておりますが、どのような経緯で結成をされたのでしょうか?

岸野さん

音楽プロデューサーの牧村憲一さん (1) に任命された形です。自分が持っているカセット音源についてSNSに書いたところ、以前から交流のあった牧村さんが指名してきたという事です。何度かカセット音源を持ち寄って聞き合うイベントを開催したりしました。

(1)

牧村憲一 音楽プロデューサー「音学校」主宰。加藤和彦、竹内まりや、フリッパーズ・ギターら数々のアーティストの歴史的名盤の制作・宣伝を手がけ現在も活躍中。

体験の前の期待感

クアトロガッツ

カセットテープ全盛の時代と現在では音楽の聴き方は変わりましたか?

岸野さん

「アナログ・レコードもそうですが、カセットは再生するのに、ひと手間かかることからも分かるように、クイック・アクセスとしては劣る印象があります。しかし、そのひと手間が、これから音楽を聞くぞ、という準備体操みたくなって、音楽が自然に入ってくる感じになりますね。

今は便利になりすぎて、この準備運動の時間が足りなくなってしまい、どのような体験も、期待感が希薄になっている印象があります。様々な体験は、思い出してみると、体験それ自体よりも、期待感の方が尊いものだったような気がします。」

デジタルもアナログも新しい

クアトロガッツ

現在は音楽を含め様々な媒体がデジタルメディアに移行しています。

岸野さん

「デジタルにはデジタルの良さがあります。取り扱いが簡便であるとか、時間を経ても磨耗しない、劣化しない、など。

自分の体験として面白かったのは、レコードやCD、カセットは、ゴミ箱に捨てるときに躊躇、というかためらいが起こるのですが、デジタル・データは簡単にゴミ箱に捨てられる、削除できる、ということです。これは人間の心理の働きとして面白い。

また、デジタルという概念が生まれて、その対概念としてアナログという言葉が初めて生まれたので、言葉や概念としては、アナログも新しいんですね。存在としては昔からあったのですが、存在意義、有り様としてはデジタルと同じで新しい。」

生活と共存していた音

クアトロガッツ

過去に高円寺で中古レコードショップもされていましたがカセットテープで聴くのがオススメのアーティスト、アルバムなどはありますか?

岸野さん

「これも自分の経験からなんですが、どんな音楽もカセットに録音してから聴くと、優しい感じになるんですね。
生活の邪魔にならずに共存してくれる、というか。CDやデータで音楽を聴くと、音楽が立ちすぎる、というか主張しすぎるような印象があります。背景に回ってくれない。」

カセットアルバムの製作

クアトロガッツ

岸野さんのされている映像音楽の芸術プロジェクト「ヒゲの未亡人」でもカセットアルバムを製作されています。

岸野さん

アルバムの内容が、音楽だけでなく、間にスケッチ(創作ギャグ・コント)や、サウンド・ドラマ、架空のCMが入ったりする構成だったので、カセットの方がフォーマットとして合っていると思ったのです。モノとしての魅力もありますしね。購入者にはダウンロード・コードが付いていて、パソコンでも聴けるように配慮しました。

どんな人にも居場所を作りたい

クアトロガッツ

コンビニでDJを行うイベント「レコードコンビニ」をはじめ「DJ盆踊り」「地下鉄DJ」「銭湯DJ」など様々な音楽の場を作られています。

岸野さん

「どのイベントも不特定多数の老若男女が集まれることを意識しています。
SNSなどのオンラインでは、趣味や話題が合う人とトピックを共有できますが、話が合わない人と接するほど「人間力」は磨かれて経験値が上がります。

そういった経験を積まないと、断絶が生まれたり、人と一緒に何かを成し遂げようとするときに説得力が生まれない、人がついてこないということが起こります。

ですので、いろんな人に「経験値をあげてほしい」「人間力を身につけてほしい」という思いでやっています。あとは「どんな人にも居場所を作りたい」という思いですね。」

コロナの渦と今だから出来ること

クアトロガッツ

多分野での活動をされていますが、現在特に力を入れている活動はございますか?

岸野さん

「現在はコロナ渦でイベントができない状況ですので、とても辛いですね。大学の講義もオンラインなので、同級生と会って情報交換ができない学生たちがかわいそうです。こんな時期だからこそ出来ることもあると思い、ポジティブに生活しています。

個人的には、時間の掛かる研究対象の論文に着手したり、対面でしか得られなかった体験の尊さを訴える文章を書いたり、です。

あとは、劇場でのイベントは、座席を交互にするなどの措置で再開が進んでいますが、座席のないライブハウスや屋外でのイベントが行われるようになってほしいので、そういった環境での注意喚起を促すアプリケーションの開発に力を入れています。」

創立50年の美学校

クアトロガッツ

岸野さんの音楽学校の講座を受講することはできますか?

岸野さん

普段は神保町にある「美学校」という美術と音楽の学校で、音楽の学科主任をやっています。創立50年の歴史を持つインディペンデントなアートスクールです。

私が手掛けている講義は「映画を聴く」という、映画の中での音や音楽の扱われ方や歴史を解説する講座なのですが、他にも作曲やDTM、ファッションや建築、サブカルチャーなど、様々なコースがあります。

最近はオンライン講義が充実しており、遠くにお住まいの方も受講できますので、ぜひどんな講座があるか覗いてみてください。

美学校はこちら

インタビューさせていただいた岸野さんはSNSやデジタル技術が発達しても変わらない人との出会い、力を合わせる喜び、人間力を磨くという大切なことを「音楽の場」を作ることを通してを伝えています。
是非イベントや講座に足を運んでみてください。

Twitter 岸野雄一@KishinoYUICHI


ワクワクは続いていく

貴重なお話を聞かせていただいた岸野さんありがとうございました。

私たちは単純にアナログ=古いという認識をしがちですが、カセットテープやレコード、ビデオテープがもたらした生活様式や体験は時代や媒体が移り変わっても、私たちをワクワクさせてくれる「新しいもの」であることに変わりはないということを再認識することができました。

そしてそのワクワクは今も続いていること。
カセットテープは私たちが愛してやまない音楽カルチャーの一つの時代を築いたアイコンとしてこれからもあり続けることでしょう。

[インタビュー/文 中辻晃生]

「小さいふ × カセットストアデイ CASSETTE STORE DAY」