超大作『火の鳥』とのコラボ
手塚治虫小さいふ。コラボ第3弾『火の鳥』
『火の鳥』は手塚治虫の真価を発揮した作品と言われ、全12篇を20年間に渡り「ライフワーク」として描きつづられたアトムに続く超大作です。
火の鳥は生命体の化身として描かれ、
古代と未来を自由に往還しながら、
そこに生きる人間達の前に現れ、
「生きるとは何か?」
「生命とは何か?」
を問いながら、生命の輪廻を人間に説いていく物語です。
(C)手塚プロダクション / 小学館クリエイティブ
生きている喜び
物語の中で人間は火の鳥の生き血を飲めば不老不死になれると聞き、「死」や「老」や「病」に対する恐怖と「生」に対する執着から、必死になって火の鳥の姿を追いかけます。
『火の鳥』のお話は、初期、中期、後期の3つに分けられ、その中でも最も重要なのは初期とされており、更にその中の第一巻「黎明編」で、不老不死の火の鳥に対して、主人公のナギはこう訴えています。
ナギ
「なぜお前だけが死なないで、おれたち人間はみんな死んでいくんだ、どうしてそう不公平なんだっ」
火の鳥「黎明編」より
火の鳥は答えます。
火の鳥
「不公平ですって?あなたがたは何が望みなの?死なない力?それとも生きている幸福がほしいの?」
「人間は虫よりも、魚よりも、犬や猫や猿よりも長生きだわ、その一生の間に。。。。
生きている喜びを見つけられればそれが幸福じゃないの?」
火の鳥「黎明編」より
生きるとは何か
「一生の間に生きている喜びを見つけられればそれが幸福じゃないの?」という火の鳥のセリフ。そこに『火の鳥』の「生きるとは何か?」というテーマが現れています。
今年は世界的に新型コロナが大流行したり、人種差別による事件が起こったり、世界中が大きく揺り動かされました。
人間の命に関わる様々な問題を目の当たりにして、「生き方」そのものを深く考えた方も多くおられるのではないかと思います。
『火の鳥』は「生きること」「死」に対して、大切なことは何かを教えてくれている本当に凄い作品です。
(C)手塚プロダクション / 小学館クリエイティブ
終戦75年を迎えて
終戦から75年を迎える本年、手塚治虫の生命尊厳の哲学がぎっしりと詰まった『火の鳥』を『ブッダ』『鉄腕アトム』に続くコラボ第3弾として創らせて頂きました。
火の鳥を含め、手塚治虫のほとんどの作品は「生命尊厳」という大きなテーマに基づいています。
それは手塚治虫の少年時代の戦争体験からくるもので、その悪夢のような戦争体験を孫の代まで伝える、語り部になりたいと繰り返し語っておられます。
これだけは断じて 殺されても翻せない主義がある それは戦争は御免だということだ
「未来へのことば」より
手塚治虫は著書の中でこのように綴っていますが、生命に変えても断じて平和を守りたいというのが、戦争を体験した方々の切実な思いなのかもしれません。
『火の鳥』の《未来編》でも、ロックという登場人物の男を通して心の奥底からこう叫んでいます。
いやだ!! 戦争だけはごめんだーっ、いくらハレルヤ(※)の命令でも、こ、これだけは、、、これだけは!!
火の鳥「未来編」より
※ハレルヤとはメガロポリスヤマトの電子頭脳で総指揮者のこと。
このシンプルな叫びから、戦争の恐怖が一直線に伝わってきます。
戦争にハッピーエンドなんてない
『火の鳥』のお話の一つ一つもそうですが、手塚治虫の作品にハッピーエンドという終わり方があまりないと言われますが、戦争を決して美化せずに、戦争にハッピーエンドなんてないんだという、本当の姿を伝えることも手塚漫画の魅力だと感じます。
読み伝えていく
手塚漫画を読み伝えていく事は、戦争を体験していない私達が、私たちの次の世代そしてまた次の世代へと「戦争は絶対悪」だと伝えていく事にも繋がると考えます。
手塚治虫が悪夢のような戦争体験を孫の世代まで伝えたいと語ったその想い。ちょうど私達は手塚治虫の孫の世代にあたり、戦争を知らない世代です。
二度と戦争を繰り返さない事、命を脅かす全ての問題の解決。世界の平和のために、微力ではありますが私達も次の世代に伝えるお手伝いが出来たら幸いです。
生命を正しく使う
未来編の終盤に火の鳥が人間たちを見てこんなセリフを語ります。
ここではどうしてどの生物も間違った方向へ進化してしまうのだろう、人間だって同じだ、どんどん文明を進歩させて、結局は自分で自分の首をしめてしまうのに、
でも今度こそ、今度こそ信じたい
今度の人類こそきっとどこかで間違いに気がついて。。。
生命を正しく使ってくれるようになるだろう。
火の鳥「未来編」より
生命を正しく使う。
生命に刺さる言葉です。
火の鳥のように生命の尊厳を教える存在は決してどこか遠い処にいるのではなく、ニーチェの格言に「足下を掘れ そこに泉あり」とあるように、私たち一人一人の胸中にあると感じます。
今回は火の鳥をコスモゾーン(宇宙生命)の中に、縦横無尽に荘厳と羽ばたかせたデザインを小さいふに落とし込みました。
これを機に、手塚治虫不滅の金字塔作品『火の鳥』12巻全て読破してみてはいかがでしょうか?
もう読んだという方は、お蔵入りになってしまったお話が載っている、『火の鳥 別巻』もぜひ読んでみて下さい。
編集/文 : 中辻渚
文章の内容には編集者の主観が含まれている場合がございます。

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