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手塚治虫
『アトムキャット』手塚治虫文庫全集 講談社
 
(C)手塚プロダクション
 
 
今回で5回目を迎える、手塚治虫コラボの小さいふが今年も誕生しました。コラボ第5弾は『アトムキャット』。

『アトムキャット』は2022年に連載70周年を迎えた『鉄腕アトム』を、手塚治虫本人がセルフパロディした晩年の作品です。

「もしも飼い猫がアトムみたいに自分の味方になってくれたら」。子供ならではの身の回りで起こる困った出来事に、アトムそっくりな心優しく勇敢なスーパー猫が大活躍する漫画です。

記念すべき第5弾のコラボということで、宝塚市立手塚治虫記念館にて手塚るみ子さんに直接インタビューさせていただきました。

手塚家の猫エピソードや『アトムキャット』の魅力はもちろん、作品の元となった『鉄腕アトム』だけでなく手塚作品にこめられたメッセージについてもお話をいただきました。

手塚作品と共にインタビューもぜひお楽しみください♪
 

PROFILE
 
手塚るみ子
プランニングプロデューサー。手塚プロダクション取締役。マンガ家・手塚治虫の長女として生まれ、広告代理店に入社。
手塚氏が亡くなった後、手塚作品と手塚イズムを国内外へ、そして未来へ伝えるため『私のアトム展』や『手塚治虫文化祭〜キチムシ』などのイベント企画をはじめ、MUSIC ROBITAという自主レーベルを立ち上げ手塚作品とミュージシャンのコンピレーションアルバムやプロデュースを行うほか、火の鳥のコラボスカジャンの製作など、さまざまなジャンルとのコラボレーションも積極的に行っている。
 
手塚治虫
1928年11月3日、大阪府生まれ 本名 手塚治。1946年4コママンガ『マアチャンの日記帳』でデビュー。1947年ストーリーマンガ『新寳島』を発表。新しいマンガの時代を築いて常に戦後マンガ界の第一人者として活動すると同時に、後進のマンガ家達にも多大な影響を与える。1962年に虫プロを設立し、1963年国産初の30分連続TVアニメ『鉄腕アトム』の放送を開始する。アニメの世界でも開拓・発展にも多大な功績を残す。1989年2月9日、60年の生涯を閉じる。
 
※手塚治虫の「塚」の字は、正しくは旧字体(塚にヽのある字)となります



Q1.
今回のコラボ『アトムキャット』は、その名の通りアトムそっくりな猫が主人公の物語ですが、るみ子さんが『アトムキャット』を初めて読んだ時の感想と魅力をお聞かせください。
 
 
手塚るみ子 『アトムキャット』は手塚晩年の作品で、子供向けに描いたお話ですので、連載当時大学生だった私は存在をしらなかったんですよ。

手塚プロの仕事をするようになってからは『アトムキャット』という作品があることは知っていましたが、しっかり読んだのは2019年に宝塚市立手塚治虫記念館で開催された『手塚治虫のニャンコ展』をプロデュースさせていただいた時でした。

『鉄腕アトム』に比べるとテーマがあるわけではなく”もしも飼い猫がアトムみたいに自分の味方になってくれたら”という、どちらかと言うと子供向けの、ドラえもん的な感覚で楽しんでもらう作品です。
『アトムキャット』っていうのは、もともと猫を母体としているので、存在そのものが非常にかわいいです。普段戦っていない時は普通の猫なんですよね。

戦う前の猫の姿が作品であちこちに描かれていますが、そのかわいさが『アトムキャット』の魅力かな。
Q2.
『アトムキャット』のように手塚作品の中には猫が登場するお話がたくさんあり、かつて手塚家でも実際に猫を飼われていたようですが、その時のエピソードなどありますか?
 
 
手塚るみ子父の育った宝塚の家で猫が飼われていて、手塚家が東京へ引っ越す際に”ムクとチロ”という2匹を連れてきたみたいです。
静かな宝塚の家と違って、引越し先の家は虫プロと隣接していたので、常に大勢の人が出入りしていました。

猫にとってはストレスのかかる環境だったのでしょうね。
引っ越ししてすぐに亡くなってしまったんです。
だから私が物心ついたころには、もう猫がいなくて。一番猫をかわいがっていたおばあちゃんの部屋で、2匹の写真を見て存在を知ったぐらいです。

虫プロ倒産後の手塚家は、ごく普通の家庭に戻り、そのせいか人間よりも近所の野良猫が出入りするようになりました。
父が直接世話をする姿はみたことがないですが、『マコとルミとチイ』の中で『ゴキブリネコ』という話を描いています。

これを読む限り父は父なりに、野良猫と私たち家族の交流を観察していたみたいですね。
 
『アトムキャット』手塚治虫文庫全集 講談社
 
Q3.
手塚作品の猫が登場するお話の中で、るみ子さんが特に好きな作品などあれば教えてください。
 
 
手塚るみ子『ブラック・ジャック』の『ネコと庄造と』というお話です。

〜あらすじ〜
家が土砂崩れに巻き込まれ、家族で唯一助かったのが主人公の庄造。 ところが脳に障害が残り、家に住みついた野良猫の親子を家族だと思い込み一緒に暮らしていました。
ブラック・ジャックが脳を手術し怪我は治るものの、以前の記憶を取り戻した庄造は猫の親子を邪険に扱ってしまう…。

野良猫の親子はずっと家族としてかわいがってもらっていたのに、庄造は急に自分たちを「薄汚いネコだ。出ていけ!」と追い出してしまうんです。

邪険に扱われても猫の親子は庄造に情があるから、ずっと追いかけてくるんですよね。 何度追い払ってもついてくる猫たちを見て、庄造は一緒に暮らした記憶を思い出すんです。

最後は「おいで、洋子」と奥さんの名前で呼んで終わるという、『ブラック・ジャック』によくある人情話なんだけど。

人間の都合で追い出されてしまった猫が、人間以上に情が深くてその猫の情の深さによって、人間がまた情を取り戻すというすごくいいお話なんです。
 
『ブラック・ジャック』
Q4.
現在はチビチャフという猫と一緒に暮らされていて、るみ子さんのTwitterなどでもその可愛らしい姿が時折紹介されていて癒されているのですが、るみ子さんが思う「猫」最大の魅力は何だと思われますか?
 
 
手塚るみ子魅力はいっぱいあるんですけど、やっぱり仕草と表情ですかね。 寝っ転がったり、ひっくり返ったり、舐めてたり、なんか丸まってたり、それだけでも癒されます。

他の動物も見ていても思うのですが、喜びだったり怒りだったりの感情を一生懸命、体をつかって表現している。その仕草が一番かわいいです。
 
愛猫チビチャフ
Q5.
『アトムキャット』の元となる『鉄腕アトム』は、科学と人間のディスコミュニケーションが大きなテーマとなっていますが、『鉄腕アトム』の中でるみ子さんが特に印象に残っているお話と、その理由も教えてください。
 
 
手塚るみ子『鉄腕アトム』はいろいろな短編が入っているんですけど、その中でも『ホットドック兵団』が『アトムキャット』に近くて、地球を牛耳ろうとする謎の組織が、世界中からさらってきた優秀な犬たちをサイボーグ化して兵隊にしてしまうというお話なんです。

サイボーグ化されても元がワンちゃんなので、ちょっとずつ犬の習性がでてしまうところがかわいらしくて。

登場キャラのヒゲオヤジの愛犬ペロも、誘拐されて兵隊の一員になってしまいますが、彼に対する特別な感情を思い出して本来の自分の感情を取り戻してく。

最終的には元の姿に戻れたからハッピーエンドなんですが、人間の私利私欲のために生き物がサイボーグ化されてしまうという、人間のエゴがよく表された印象に残っているお話ですね。

他のアトムのお話はどちらかというと、宇宙人だったり、ロボットを作って戦わせるお話が多いですから。

手塚治虫公式サイト『ホットドック兵団』
Q6.
『鉄腕アトム』に中にも『赤いネコの巻』という、近代文明の発展とそれに伴う自然破壊や犠牲になる動物たちがテーマのお話があります。手塚作品の中にはそういった人間以外の生き物を多く描かれていますが、生き物に対する手塚治虫さんの想いを、るみ子さんはどのように感じていますか?
 
 
手塚るみ子この地球上にいる人間以外の他の生き物たちに対して、人間のエゴでそういうものたちを無視したり、利用したり、敵視したりという事実があって、手塚の作品にはそういう現実的なお話も多いです。

それは手塚が小さい頃から、生き物たちの中で自分や人間は暮らしているんだという考えがあったので、人間以外の地球上の存在に対して、自分たちより相当優れているんじゃないか。という感覚をもっていたと思うんですよね。

人間は欲とかエゴとか業の深さとかで、複雑に生きていかなきゃいけないんだけど、生き物っていうのはものすごく端的で。命を授かりました、子孫を残します、自分の役目は終わります。とものすごく生きることに対してまっすぐで、正直で、余計なことを考えない。

父もそういう生き物たちをみていて、人間は余計な感情とかエゴとかいろんなものがあって、余計生きづらくなっていることにどうして気づかないんだろうと。あんなにも他の生き物たちは真っ直ぐに生きているじゃないか、あれでいいんじゃないかと。

命を次につないでいくことが自分たちの一番のミッションなんじゃないかということに、多分一番最初に気がついているんじゃないかな。

だから手塚マンガの中で”いかに人間がめんどくさいことをしているか、生き物から学ぶことがたくさんありますよ”というのをまず伝えたいんだと思うんですよね。

”他の命があるから自分たちが生きていける”そういうところに人間はあまりにも気がつかないで、知らないままあぐらをかいてしまっているということに対しても、気がつくべきだろうということを伝えるため、マンガを使って子供たちに向けてたくさん物語を描いたのかなと思います。
 
Q7.
最後に今回のコラボ第5弾で『アトムキャット』が小さいふになった感想などあればお聞かせください。
 
 
手塚るみ子クアトロガッツさんとはシリーズでコラボをやらせていただいて、他のブランドさんでは思いつかないようなデザインが非常に秀逸だなと。

コラボ第5弾の『アトムキャット』はちょっと意外ではありましたが、8月8日世界猫の日に向けてだったり、今年はアトム連載70周年だったりというところに絡ませて『アトムキャット』に目をつけたところがクアトロガッツさんらしいです。

デザインもかわいいですし、アトムファンはもちろん猫好きも手にとりやすいですよね。キャラクターがドンという感じではないので、熱心なファンの方とライトな読者の両方におすすめしやすいなと思います。

生き物が環境に適応するのと同じように、手塚作品が他の遺伝子(クアトロガッツ)とかけ合わさってコラボできるのはおもしろいですね。
 




 
 
あとがき


過去のコラボでも何度かインタビューをさせていただきましたが、今回コラボ5周年ということで、手塚先生の育った宝塚市立手塚治虫記念館にて、手塚るみ子さんにお話を伺うことができました。 直接お会いしてインタビューするのは今回が初の試みとなります。

インタビューでもお話いただきましたが、人間がいかに自分勝手な存在か、自分たちの地球だと驕り高ぶってしまう愚かさに気づかなければならないという手塚治虫先生からのメッセージは、まさに現代の私たちが考えなくてはならない問題だと改めて感じました。

”人間だけがこの地球を生きているわけではない”私たちはそんな当たり前のことさえすぐに忘れてしまいます。 未だに作品が読まれ続ける理由もきっとそこにあって、人間のエゴ、環境破壊、平和など、私たちにとって大切なテーマだからこそ、色褪せることない名作として読み継がれていくのでしょう。

もう手塚先生に会うことは叶いませんが、作品の中でその哲学やメッセージに触れることができる。 この手塚コラボを通じて手塚作品に親しむ機会にしていただけると嬉しいです。

手塚るみ子さんよりお声掛けいただき、手塚作品との小さいふコラボが実現できたことを心より感謝いたします。  

インタビュー/中辻渚 編集/竹中遥香
文章の内容には編集者の主観が含まれている場合がございます。


 
2022年8月8日発売

   
※手塚治虫の「塚」の字は、正しくは旧字体(塚にヽのある字)となります



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