前回の記事で、タンニンなめしとクロムなめしの違いについてお伝えしました。その中で「フルベジタブルタンニンなめしは、世界に流通する革の0.何%未満」という話に、驚いた方もいるのではないでしょうか。
なぜ、そんなに少ないのか。今回はその理由を掘り下げます。
そもそも「タンニン」って何からできているのか
タンニンなめしの「タンニン」とは、植物から抽出した渋み成分のことです。栃木レザーが使っているのは、ミモザという植物の樹液を乾燥させたもの。
ミモザと聞くと、春に咲く黄色い花を思い浮かべる方もいると思います。武骨な男の職場である革の工場で、女性のイメージが強いミモザが使われているというのは、なんとも面白いコントラストです。
遅澤社長も「工場は男臭いのに、使っているものは女性のものという、このアンバランス感が好きなんです」と話していました。

原皮はなぜカナダ産なのか
栃木レザーが使う原皮(なめし加工前の牛の皮)は、カナダ産が中心です。なぜカナダなのか、不思議に思う方もいるかもしれません。
理由は、牛が育つ環境にあります。革の品質は、牛がどんな環境で育ったかに大きく左右されます。虫に刺された跡や、ぶつけてできた傷が多いほど、革の品質は落ちてしまう。

カナダの牛は、もともと警察や軍隊が使う分厚い革の素材として求められてきた歴史があります。加えて、カナダでは硬くてゴワゴワした食感の肉が好まれる食文化があり、長く育てられた牛が多かった。
長く生かされ、大きく育った牛は皮も厚くなる。その流れで、革に向いた原皮が手に入りやすい環境が整っているのです。
ちなみに、「メイドインイタリー」「メイドインジャパン」など、革の産地表記はどこでなめしたかで決まります。原皮のほとんどは北米からで、最終工程をどこで行うかで産地が変わる。革を選ぶ上で、知っておくと面白い業界の話です。


なぜ1%しか存在しないのか
世界に流通している革のうち、約99%はクロムなめしです。残りの1%がタンニンなめし。そのうちフルベジタブルタンニンなめしとなると、さらに0.何%の世界です。
なぜここまで少ないのか。それは、これだけの手間とコストをかけて作れる会社が、世界でもほとんど存在しないからです。フルベジタブルタンニンなめしには大きなハードルがあります。

栃木レザーは、この4つすべてを自社で担い続けています。それが、世界に0.何%しかない革を生み出す理由です。


それでも値下げしない理由
コストが上がり続ける中でも、栃木レザーは革の品質を落とすという選択をしません。
ミモザのタンニンはここ4年で価格が2倍になりました。原皮の仕入れコストも上がり続け、為替は78円から160円近くに変化。
廃水処理の基準も年々厳しくなり、設備投資も必要になっています。それでも、本物の革を作り続けるという姿勢は変わりません。
私たちクアトロガッツが栃木レザーを使い続けているのも、同じ理由からです。コストだけを考えれば、他の選択肢はあります。
それでも選び続けているのは、素材が違うだけで2年後・5年後・10年後の仕上がりがまったく変わってくるからです。

「いい素材を使えば、自然とええものができる」
クアトロガッツの原点にある言葉です。
この言葉をくれたのは、ハシモト産業の橋本会長。長年にわたって革業界に関わり、栃木レザーの製法考案や再建を影で支えてきた、業界では知る人ぞ知る存在です。
そんな橋本会長が、革を買いに来たばかりの20代の中辻に、こう言いました。
「お前みたいな下手くそは、ええ素材使ってシンプルなもの作れ。どんな料理でも、ええ素材を塩だけで出したら美味しいでしょ」
この言葉が、クアトロガッツのものづくりの根っこにあります。
栃木レザーとクアトロガッツ、ふたつのブランドに共通しているのは、儲けよりも品質を選ぶという姿勢です。世界に1%しかない革を使い続けること。それがどういう意味を持つのか、この記事で少しでも伝わっていれば幸いです。

