売り場に立っていると、こんなことを言われることがあります。

「革製品ですか。SDGsの観点から、ちょっと良くないですよね」

革を長年使い続けてきた立場からすると、正直少し驚きます。でも、そう感じている方がいるのも事実で、ずっと気になっていた話でした。今回の対談で、遅澤社長に聞いてみました。

革=環境に悪い、という誤解はどこから来たのか

この誤解が広まった背景には、あるラグジュアリーブランドの話があるようです。

そのブランドが、革のために牧場ごと買い取って牛を育てていた。そういう情報が広まり、「革のために牛が飼われ、殺されている」というイメージが一人歩きしていったのかもしれません。

ただ、遅澤社長によると実態は少し違ったようです。そのブランドはホテルやレストランも経営していて、育てた牛の肉もチーズも使っていたとのこと。完全な循環型経営だったのに、一部分だけが切り取られて伝わってしまった可能性があります。

「その一点だけの情報がそういった誤解を招くことに繋がった。2〜3年前にすごく感じたので、なるべく取材や雑誌でそこは訴えるようにしています」(遅澤社長)

一部の情報だけが広まると、全体像が見えにくくなることがある。革をめぐる誤解には、そういう背景もあるのかもしれません。

革と環境の関係について語る栃木レザー遅澤社長
クアトロガッツ代表中辻と栃木レザー遅澤社長の対談風景

革は食肉の副産物である

まず、革という素材の話を少しだけ。

牛はあくまで食のために育てられます。革は、その後に残る副産物です。数百年前から、人間は牛を食べ、骨を道具にし、皮を衣服や道具に使ってきました。

捨てられるはずだった皮を、価値あるものに変えてきた。SDGsという言葉が生まれるずっと前から、それはごく当たり前のことでした。

遅澤社長はこう話しています。

「食肉された後の副産物を使わせていただいているという感覚なので、めちゃくちゃ持続可能やんって思うんですよね」

牛のゲップが温暖化につながるという話が取り上げられることがありますが、それは食肉文化の話であって、革とは切り離して考えた方がいいかもしれません。

人間が肉を食べる文化がある限り、副産物としての革は生まれ続ける。その革を使い続けることは、命を最後まで大切にすることでもあると、私たちは思っています。

食肉の副産物として生まれる原皮。栃木レザーが使うカナダ産原皮
副産物の皮から生まれた栃木レザーの革製品。クアトロガッツの小さいふ

フルベジタブルタンニンなめしの革は、土に還る

ただ、革の種類によって、その後の行方はずいぶん変わります。

クロムなめしの革は、重金属であるクロムが革の繊維に結合しているため、廃棄されても自然に分解されにくい素材です。

一方、植物由来のタンニンで作られた栃木レザーのフルベジタブルタンニンなめし革は、使い終わった後、土に還ります。

遅澤社長はこの素材をこう表現します。

「フルベジタブルタンニンなめしは、よく『土に帰る革』と言われます。本当の意味での循環で、革がやがて土に還り、また牛の栄養になっていく。そういう素材なんです」

ミモザの樹液から作られたタンニンで仕上げられた革は、使い込まれるほどに味が出て、やがて土に還っていく。革製品の一生が、自然の中でひとつの循環をつくっているんですね。

中辻がこの話を最初に聞いたのは、20年以上前のことでした。そのとき思ったのが「土に最後まで分解される革って、めちゃくちゃかっこいいやん」という感覚。

SDGsという言葉すらまだなかった時代の話です。その感覚が、クアトロガッツが栃木レザーを使い続ける理由のひとつになっています。

タンニンなめしの革は土に還る。栃木レザーのフルベジタブルタンニンなめし革
使い込まれて経年変化した栃木レザーの小さいふ。土に還る革の経年変化

廃水まで肥料に変える栃木レザーの取り組み

この循環は、革そのものだけにとどまりません。革をなめす過程では、大量の廃水が出ます。世界の革産地では、この廃水処理が環境問題になっているところも少なくないようです。

栃木レザーは、この廃水を自社で処理して、肥料に変えて地球に還すシステムを持っています。世界的にも非常に珍しい取り組みなのですが、この仕組みが生まれた経緯がまた面白い。

遅澤社長に聞いてみたら、こんな答えが返ってきました。

「狙ってやったわけじゃなくて、やる人がいなかったから自分たちでやるしかなかった」

周囲に同業者がいない単独の工場だったから、市や自治体に任せることができなかった。仕方なく自分たちでやり始めたことが、今では世界が注目する取り組みになっています。

栃木レザーの廃水処理システム。廃水を肥料に変えて地球に還す環境への取り組み
栃木レザーの工場。廃水を自社処理し肥料に変えるSDGsより先の取り組み
栃木レザーの廃水処理の仕組み。世界的にも珍しい自社廃水処理システム

SDGsという言葉が生まれる前から

SDGsという言葉がまだなかった時代から、クアトロガッツは栃木レザーを使い続けてきました。ブランドイメージのためでも、マーケティングのためでもなく、シンプルに「この革が好きだから」という理由で。

好きだから使い続けてきた革が、実はずっと地球にやさしい革だった。そのことに、改めて誇りを感じています。

「革はSDGs的に良くない」という話から始まりましたが、いかがでしたでしょうか。こういう革が、ずっと前からあったということを、少しでも感じてもらえたら嬉しいです。

SDGsより20年前から栃木レザーを使い続けるクアトロガッツの小さいふ
地球にやさしい革。栃木レザーのフルベジタブルタンニンなめし革を使ったクアトロガッツの革製品