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監督:ステファン・エリオット
出演:テレンス・スタンプ、ヒューゴ・ウィーヴィング、ガイ・ピアーズほか
U-NEXTにて配信中

初めて本作を見たのは、当時付き合っていたアメリカ人宅でのパーティーでだった。

宴もたけなわそろそろ落ち着いた頃、参加していた彼の女友だちが「オーストラリアで面白い映画が作られたのよ、見ない?」と「The Adventures of Priscilla, Queen of the Desert」と書かれたビデオを取り出した。

「これ見たかった!」「トレーラー見たけど最高だった」なんてことを言いながら外国人たちが盛り上がる中で、彼が「これ、ドラァグクイーンの映画なんだよね。見たい?」と教えてくれた。

ドラァグクイーンについては以前から知っていたけど、それがモチーフになってるなんて!とテンションがあがり「もちろん!」と答え、興味津々で観賞した。

オーストラリア、シドニーにある場末ムード漂うバーで、ドラァグクイーンのミッチがシャーリーンの「愛はかげろうのように(I’ve Never Been to Me)」をリップシンク(口パク)ショウをしているところからはじまる。

そんな彼の元に、ある人物からオーストラリアのど真ん中に位置するアイススプリングスのホテルでショウをやってほしいという依頼が舞い込む。

そこでミッチは長年の恋人を亡くしたばかりで塞ぎ込んでいるバーナデットと、若さが武器のイケイケドンドンなフェリシアを誘い、“プリシラ号”と名付けた古ぼけた大型バスに乗り込み、シドニーから3千キロも離れた、砂漠のど真ん中にあるホテル目指して旅立つが、その道中、彼らには様々な現実を突きつけられことになるという話。

映画の中では、ゲイコミュニティで王道なヴィレッジ・ピープルの「go west」やグロリア・ゲイナーの「I WIll Survive」、シーシー・ペニストンの「finally」、ヴァネッサ・ウィリアムスの「Save the Best for Last」などの曲が全編にわたって使われており、外国人たちは、そんな曲に合わせて一緒に歌い踊りながら見ていた。

かくいう自分もその雰囲気に酔いしれながら、映画に魅了され、見終わった後は興奮と高揚が収まらず、彼に色々と質問しまくっていた。
そして後日、タワーレコードでサントラを購入。聴きまくって、やるあてもないのにリップシンクの練習をしていたっけ・・・。

しばらくして、本作はサンダルで作ったドレスなど、独創的なクイーンたちのドレスでアカデミー賞の衣装デザイン賞に輝いた。受賞式ではデザイナーのリジー・ガーディナーがアメックスのゴールドカードを繋げて作ったドレスで登場し超話題に。そして遅れて日本でも「プリシラ」というタイトルでミニシアターを中心に公開された。

ちなみに当時、関西の夕刊紙に本作の広告が掲載されたのだけど、ドラァグクイーンの横顔に吹き出しで「うちら、これでアカデミー賞もろてんで」という、関西でしかありえないコテコテのコピーを付けられており、「よくこんなコピーを付けたなぁ。
でも、素晴らしいなぁ」と個人的に衝撃を受け、思わず宣伝会社の方に話を聞きに行った思い出がある。

さて、話は前後するが、90年代初頭、ドラァグクイーンは まだまだ知る人ぞ知る存在だった。ニューハーフと混同している人の方が多かったし、ドラッグクイーンと表記されていることが多く、薬と意味があると思われており、今もそう解釈している人は、実は多かったりする。

「ドラァグ(drag)」は「引きずる」という意味で、すべてにおいてトゥマッチな衣装やメイク、ウィッグで唇の動きと音声とを連動させる「リップシンク・ショウ」を行うパフォーマーのことを指す。

2000年に開催されたシドニーオリンピック閉会式にはドラァグクイーンたちがカイリー・ミノーグとともにプリシラ号をモチーフにしたバスフロートで大挙登場し、ドラァグクイーンは文化であり観光資源です!
オーストラリアはマイノリティを理解していますとばかり、大々的なアピールをしていて、この映画の影響力の凄さに驚いた。

そんな本作は、公開から25年以上が経っているものの、今見ても、映像的にもストーリー的にも感覚的にもあまり古さは感じられない(ただショウは若干古臭さは否めないけれど)。

ロードムービーでありながら、初老ゲイのバーナデット、中年ゲイのミッチ、若ゲイのフェリシアというゲイの三世代物語でもある。

バーナデットは同性愛者として社会からの厳しい疎外感があった時代を知っている年代。だからこそ、いざという時の肝の座り方が見事だし、ミッチは、今、これからをどう生きるかを考える年代。過去には女性とも関係があり、それがこの旅のキーワードにもなっている。

そしてフェリシアは今が楽しければいい、怖いもの無しの年代。とはいえ人一倍心弱かったりする。

そんな三者三様の生き方を見せてくれるのが、ミッチを演じるヒューゴ・ウィービングとガイ・ピアースに、テレンス・スタンプ。

前記したふたりは本作で注目され、後に「マトリックス」シリーズや「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズ、「L.A.コンフィデンシャル」や「メメント」などに出演し、今も活躍している。

そしてテレンス・スタンプは、「コレクター」や「スーパーマン 」シリーズ、「世にも怪奇な物語」の中の「悪魔の首飾り」などでもおなじみの名優。

最初にオファーが来た時は難色を示したものの、腹を決めたらとことんとばかり、見事な憑依ぶりを果たし、バーナデットというキャラクターを作り上げた。

そんなテレンス扮するバーナデットが「普段は都会が嫌だなんて言ってるけど、 都会という壁が私たちを守ってくれてるのよ」 というセリフには、これまでゲイとして清濁合わせ飲んだバーナデットの人生が垣間見え、自分を重ねたゲイは多い。

ここ数年、同性愛者を取り巻く環境は変化し、社会も変化し、多少は寛容にはなってきたとはいえ、前記したバーナデットの言葉は、いまだ説得力を持っている。
早く、都会も地方も郊外も隔たりなく、ありのままで暮らせていける社会になってほしい。

仲谷暢之
大阪生まれ。吉本興業から発行していた「マンスリーよしもと」の編集・ライティングを経て、ライター、編集者、イベント作家として関西を中心に活動。


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